『チロの見た景色』ぶらぶらと歩いて、辿り着くのはいつもここだった。それは今も昔も変わらない。
といっても、来たくて来た、のではなく、犬のチロがここを好きだったんだ。
『もー早く帰ろうよ』という寒い日も、チロはここへ向かう。
散歩の雰囲気を感じては、シッポをブンブン振って喜ぶもんだから、引っ張って帰るのもかわいそうだし、散歩中はたいてい好きにさせてやる。
すると、チロはいつもここへやってくるんだ。よっぽどお気に入りの場所なんだろう。
それにしてもチロはここに来て、一体何を見てるんだろう。この場所に特別何かあるわけでもないのにな。
ただ行儀良くお座りしては、この景色をしばらく眺め、
「んーーOK!」という感じで立ち上がり、
「かえろー」という表情で、私を見る。
…チロはここが大好きだったんだ。
ぶらぶらと歩いて、辿り着くのはいつもここなんだ。それは今も昔も変わらない。
今、私は1人でこの景色を眺めている。
頻繁に訪れては、しばらくベンチに座って、ぼんやりとチロのことを思い出す。
私はフと思う。
チロにとっても、ここは何かの想い出の場所だったのかもしれないな、と。
そう思うと、私はなんだか居たたまれない気持ちになって、涙が零れた。
『だめだ、帰ろう。お家で泣こう』と思い立ち上がると、突然冷たい風がびゅっと吹き、涙は瞬く間にかき消された。
「泣かなくていいよー」と、チロが言ってるような気がした。
『それなら、温かい風がいいのに』と私は思う。
「また来てね」と言うかのように、小さいつむじ風が舞った。
『また、来るよ』と、私はその小さな風に微笑んだ。
今となっちゃここは、私にとっても特別の場所なんだ。
チロと同じように。
・・・FIN
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